Rebersible Man 2





 ピンポーン。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 チャイムの音がするが、扉の向こうからは何の反応もない。
 その反応に、友雅は満足気に小さく微笑んだ。
 コン、コン、コン
 軽いノックを三回繰返すと、
「私だよ」
小さく囁く。

 すると、扉の向こうからかちゃかちゃと金属音がし始めた。

 がちゃり
「おかえりなさいませ!」
 扉が開くのと、その声が響くのと、ほとんど同時であった。
 中から綺麗な長い髪を靡かせた少女が現れる。友雅に駆け寄ると、何の躊躇いもなくその胸に飛
び込んだ。
「ただいま、お姫様」
 友雅も嬉しそうに、小さな少女を抱き上げると、ぱたんと扉を閉めた。

 部屋に入り、短い廊下を抜けると、正面のリビングに大量の雑誌が広がっている。
 朝までなかったはずのものが増えていることを、友雅は一瞬考え込む。だが、
「・・・・・・マネージャーだね?」
結論は簡単に導かれた。
 少女は友雅の顔色を伺いながら、小さく頷く。まだ十歳くらいであろうが、しなを作る姿はさまに
なっている。
「やれやれ・・・藤姫さまは、彼が甚くお気に入りのようだ」
 藤姫と呼ばれた少女には、例え誰が尋ねて来ても決して答えないようにと言い渡してある。そんな
中、この部屋に友雅以外に自由に出入りを許しているのは、今のところ彼のマネージャーだけであった。
 と、いうよりは、藤姫自身が気に入った者しか、友雅はこの部屋に入れない。
「だって、持ってきてくださった新しいお写真・・・とっても綺麗ですのよ」
 藤姫は嬉しそうに一冊を手に取り、広げてみせる。 
 その紙面には、髪を乱し俯き加減に目線を送る友雅の姿があった。
「あぁ・・・・・・・」
 気だるそうに、その雑誌を藤姫から受け取ると、
「・・・カメラマンさえもうちょっとましだったら、もっと良いものになったのかもしれないがね」
苦笑いともつかない笑みを浮かべながら、リビングの机にそれを投げ置いた。
「ダメですわ!ものは大事に扱ってくださいませ!」
 藤姫のお説教を微笑みで流した友雅は、ソファに腰を降ろす。

 ふと見渡す部屋中に広げられた、自分の顔、顔、顔。

 彼のすぐ脇に腰を降ろし楽しそうに何冊も頁を捲る藤姫を横目に見ながら、
 全く、姫君は私の顔もお気に入りとみえる。
そんなことを思い、胸中でふふ、と微笑んだ。

 モデルの仕事を始めて、もう何年になるのだろうか。
 顔立ちのことは勿論、その飄々とした雰囲気が、若者から熟年にまで妙にマニアックな人気を得て
おり、ここ何年もその勢いは衰えることを知らない。それは、マネージャーでありながら、友雅の所属
事務所の社長をしている男の手腕も関係ないとは言い難い。おかげさまで仕事に困ることもなく、一
般の同世代よりは恵まれた暮らしをしていた。
 それには、まぁそれとなく感謝はしている。
 だが。
 正直なところ、未だ嘗て友雅自身が満足する写真が出来上がったのを見たことがなかった。
 別に、自分をもっと美しくだの、こういうアングルがどうだの、そんなことはどうでも良い。
 ただ、自分の魂を揺さぶるような、そんなフォトグラフを一度で良いから見てみたいのだ。

「見てくださいませ、この海!」
 藤姫の声に、友雅は現実に戻される。
「見てくださいませ!とても綺麗ですわ!!」
 興奮気味に友雅の目の前に、藤姫は雑誌を突き出した。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 それは、夜明け前の、海の写真だった。
 波の穏やかな動き。もう間もなく照らし出されようとする水面。
 静寂。躍動。
 紙面半分程の写真一枚に秘められた、多くの物語。

 写真自体は、新しい煙草の広告であった。
 友雅は、写真家の名前を探す。
 写真の右端に小さく『photo:jade』とだけ記されているのを見つけると、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
暫く考えた後、
「・・・・・・・・・・・・・・」
無言で立ち上がり、部屋の隅に置いてある自宅電話の受話器を取った。
 迷わずに数字キーを叩く様子から、かけなれた番号なのであろうと、藤姫は思った。
「・・・・あぁ、マネージャー、私だよ・・・・・そう、お願いがあってね」




 小さなスタジオはまだ覚めやらぬ熱気に満ちていた。

 被写体は、小さな、小さな、水の注がれたグラス。
 その透明感を出すために、ライトや背景の色を何度も変え、ようやく納得の行くものが完成した。

「ジェーーイド!」
 今回最大の功労者の名前を、スタッフは呼ぶ。
 カメラのレンズカバーをかけながら、呼ばれた男は振り返った。
「・・・・・・なんだい?」
「お前にさ、写真を撮って欲しいってさ」
「ふーん、何を撮ればよいの?」
 気にも留めない様子で、望遠レンズを分解する。
「それがさ、今回はものじゃなくて、ひとなんだよ」
「・・・・・それは残念。私は人物写真の被写体だけは自分で選びたいのでね」
 分解したカメラを丁寧に布で包みながら、ケースにしまい込む。
「でもさ!今回のモデル・・・『T』っていうんだけどさ」
「・・・・・・『T』?」
 やはり気にも留めない様子で、ケースの蓋を閉じるジェイドに、スタッフは再び語りかけた。
「ホラ、見てみろって!絶対興味湧くからさ!!」
 スタッフが強引に差し出す資料を、
「・・・・・・・・・・・・わかったわかった・・・」
半ば諦めながら受け取り、めんどくさそうに中を確認する。
 モデルの資料に目を通した瞬間、
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
ジェイドの顔から、怠惰な気配が消えた。

「・・・・・・・・・ふぅん・・・・・」

「な、な!!ビックリだろ?!」
 そこにあるのは、ジェイドと全く同じ顔の男の写真であった。







2004.9.22 

・・・・・・・。

友サマ・・・
藤姫を囲ってま(ズキューン)






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