Rebersible Man 15





 幸鷹は昨夜、署に泊り込んだ。
 あのマンションの持ち主や、あの部屋に住んでいる人物のことをともかく調べたかったのだ。自宅
でやるより、資料は遥かに揃っている。
 部屋の名義までは辿り着いたのだが、実際に住んでいる人物は比較的入れ替わりが早いらしく、
特定は出来ない。
 実際に本人に会った方が早いかと、結論に辿り着くと、ともかく一旦仮眠でもしようとジャケットを
脱ぎかかけた。
 かさ、という紙の音に、ふと思い出しポケットに手をやると、少し折れ曲がった名刺に指が当たる。

 ジェイド

 胡散臭い。だが、あの男がカメラマンだということに嘘は感じられなかった。
 そう思いながら、幸鷹は足元に置いたカバンからノートパソコンを取り出した。電源を上げ、ストッ
ロにカードタイプのPHSをセットすると、回線を繋ぎ検索を始める。
 署のパソコンの方が情報は確実に得られるのは承知していたが、まだ何か問題を起こした訳でも
ない。そこまでする必要はないと感じ、自分の私用のパソコンで調べることにした。
 検索条件を打ち込むと、何百件というヒットが表示される。最初は似たようなものや言葉だけで
引っ掛かってきたものばかりかと思っていたが、あながちそうではなかった。
 ここ数年で、彼が手掛けた仕事は決して少なくなかったのだ。

 ともかく多いのは風景写真。特に海、山などの自然を対象とし、写真集は3冊発売されていた。そ
の他、静物などが少々。
 サンプルでアップされていた写真を見ると、確かに一味違うのだと素人にも判る。

 斬新なアングル。というか、どんな体勢で映したのだと幸鷹は少し呆れながら画面を眺めた。恐ら
く、床に転がったり、高い場所に登ったりしなければ撮れないものばかりである。
 まるで子供の好奇心の赴くままに動き回って見つける世界を、そのまま好奇心の赴くままにシャッ
ターを切る。
 幸鷹のような生真面目な人間には考えもつかない世界であった。

 とある雑誌のHPに、ジェイドのインタビュー記事が抜粋されているものを見つけた。
 どうもこの男は、全くと言って良い程言葉を残さないようで、このコメント記事を見つけるころには検
索を始めて1時間以上経過していた。

 自然は面白い。特に、海や空。
 変化を伴い、ファインダーを覗く度に一度として同じ風景がない。
 飽きることを知らない世界だ。
 人物を撮らないのは、レンズ越しに見た瞬間に、創られてしまうから。
 2度目に覗いた時はもう飽きてしまう。
 もっとごく自然に近い人物なら、撮ってみたい。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 自然に近い人物。
 そこまで判って、幸鷹は不思議に思った。

 そうだ。人物が、ない。

 自分を撮りたいと言うからには、どんな写真を撮っているのか。それもあって調べてみたのだが、
圧巻されてそれを思い出せずにいた。
 やはりジェイドが公に開示している写真には、ただの一枚も人物はないようだ。

 では、自分を撮りたいと言ったのは、何故?
 
 眼鏡を外し、ふぅ、と小さく溜息を吐くと、幸鷹はパソコンのウインドウを閉じ、電源を落とした。
 そのままソファに横になると、自分のジャケットを毛布代わりに身にかけ、軽く眼を閉じる。

 この一件が片付いたら、話くらい聞いてやっても良いかもしれない。
 幸鷹はそんなことを、まどろむ瞬間に思った。


 翌日、目覚めた時にはすっかり忘れているのだが。







2004.10.07 


幸鷹って
ギモンに思ったら
調べ倒しそうだなぁ・・・

という私のギモン(笑)




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