Rebersible Man 18







 部屋に入ると、リビングのソファに座っていたお人形のような少女が、きょとんとした表情で4人を
代わる代わる眺めた。
「・・・まぁ・・・・これは一体、どういうことですの・・・?」
「さぁね、私も聞きたいよ・・・藤姫」
「こんにちは、藤姫」
 声を掛けられると少女は鷹通ににこりと微笑んだ。その様子から、鷹通とは面識がある・・・つまり
鷹通はここへ来たことがあるのだと幸鷹は察した。
 藤姫という少女は、どうもあまり外に出ないようである。玄関に少女の履けそうな靴もないし、日焼
けも全くしていない。

「・・・こんにちは・・・・貴方がジェイドさん?」
「こんにちは、『T』がこんな可愛いお姫様と同棲していたとは知らなかったね」
「誤解を招く言い方はしないでもらいたいな、ジェイド」
 まぁ、と笑うと藤姫は幸鷹の方をちら、と見た。
「こんにちは」
「・・こんにちは・・」
 少し物怖じしながら、藤姫は幸鷹に挨拶を返す。
「藤原幸鷹と言います、突然お邪魔じてすいません」
「いえ・・・藤と申します」
 幸鷹の微笑みにつられるように、藤姫もにこりと微笑んだ。

 藤姫は極度の人見知りで、以前新聞の集金が来ただけでも脅えてしまい大変なことになったこと
があった。以来、友雅は人の出入りには気をつけていたのだが、おそらく彼らなら大丈夫であろうと
思い部屋に入れた。それは外れることはなかった。

「藤姫は、私の従兄弟にとてもよく似ていますね」
「幸鷹さんの、従兄弟さんですか?」
「えぇ、双子の兄妹がいまして、その妹さんが貴女によく似ています」
「似たものだらけだね」
 ジェイドは半ば呆れたように横槍を入れると、釘を刺すような眼で幸鷹が睨む。おお恐いとジェイド
はその場を離れ、ダイニングカウンターの方へと歩いていった。
「二人とも幼いのに、とても頭が良くて、大学の研究室にも出入りしているんです」
「まぁ、すごいですわ!ぜひお会いしてみたいです」
「えぇ、紫さんもきっとそう言うと思います」

 ゆかり。

「・・・・あの、幸鷹さんの従兄弟さんは『ゆかり』さんと仰るのですか?」
「・・・?え、えぇ」
 鷹通の突然の問い掛けに、幸鷹は少し驚きながら答えた。
「双子と仰いましたね・・・・もしかして、お兄さんは『ミソノ』さんと・・・?」
「・・・・驚きましたね、深苑くんをご存知なのですか?」
 鷹通は、言葉が出なかった。

 ミソノとユカリは、本当に偶然出会った。盗んだ美術品の『中にあるもの』だけしか必要としなかっ
た鷹通が、大学の資料室でその方法を探しているところに、
「なんだ、エネルギーの変換について調べているのか」
と、やけに澄ました子供に声を掛けられたのが始まりであった。

「なんだい、またそっくりさんがいたのかい?」
 そう言いながら、ジェイドは肩に掛けていたカメラをダイニングのテーブルへ丁寧に置いた。鷹通
が、ふとそのカメラに眼をやる。
「・・・・あの、すいません、そのカメラ・・・・」
「・・・・・え?あぁ・・何?」
 少しばつが悪いように、ジェイドはカメラに手を触れる。
「・・・・そのカメラ・・・どこかで見たことが・・・・」

 何かが、引っ掛かった。

「・・・そうかい?どこにでもある業務用のカメラだが」
 カメラではない。カメラに纏わり付く、なんと呼べばいいのか、不可思議な空気。

 瞬間、ずきん、と鷹通の後頭部に痛みが走る。

「・・・・・っ・・・何・・・?」
 頭を抱え込みながら、鷹通はその場に屈みこんだ。

「鷹通?!」
 ジェイドは腰を落とし、目の前で苦しむ鷹通に呼びかける。
「顔色が悪い・・・救急車を呼んだ方が良いのでは?」
「ともかく、横になった方が良いかもしれないね」
 友雅と幸鷹も、鷹通の周囲に集まるように顔色を覗き込んだ。
「大丈夫か、鷹通?」
 再びジェイドに掛けられた声に、
「・・・・・・いつ、私の名前を・・・?」
鷹通は痛みの中で浮かぶ疑問を見つけた。
「・・・・・・・・今そんな話は・・・」
「・・・・・駄目です・・・・・っ・・・今でないと・・・」
 蹲り、激痛の襲う最中を、鷹通は必死で記憶を辿る。
 
 今でなければ、思い出せない。そんな焦燥感に駆られるのだ。

 何時?何時この男と出会ったのだろう?
 学校?この処、ずっと怪盗家業に追われて学校など通っていなかった。いや、そもそも自分の通っ
ている学校は何処なのだろう?

 それ以前に、何故自分は怪盗などやっているのだろう?
 何の目的で?何を盗みたくて?

「・・・・・・・・・っ・・・ぁ・・・・・」
 あまりの頭痛に、鷹通は左手を伸ばしその先にあるものと掴む。
「・・・・・!!・・・しっかりなさい!」
 その先には心配そうに見つめる自分と同じ顔があった。幸鷹の右肩を必死で掴み、痛みを紛らわ
す。
「・・・・・・・つ・・・」
 幸鷹も掴まれた痛みはあるが、それ以上に鷹通の苦痛への心配が心を占めていた。
 藤姫もおろおろとした様子で見守ることしか出来ないようであった。
 夕べも、最初はこんな不安げな顔で藤姫は、自分を見つめていたのだろうかと、鷹通は思う。

 そうだ。

「・・・お願いです・・・っ、造花を・・・・・・」
 自分はあれを取り戻しに来たのだ。
「何ですか?造花?」
「・・・・あぁ、あれだね」
 友雅はリビングのチェストから、夕べ鷹通から失敬した牡丹の造花を取り出した。
「これだね?」
「・・・・・・・・・・・・」
 返事を返すのも億劫なのか、鷹通は一度だけこくんと頷くと、右掌にそれを受け取った。

 何故だろう?
 何故この花が必要なのだろうか?
 再び疑問が脳裏を渦巻いた。

 鷹通の指が、首の付け根へとずれ、そのまま幸鷹の右の首筋をぎゅう、と掴み上げた。
「・・・・・・・っ・・・」
「駄目だ、鷹通・・・!離さないと・・・」
 ジェイドの言葉に、
「・・・ジェイド、君は何か知っているのか・・・この原因を・・・?」
友雅はジェイドを見詰めた。

 痛い。
 脂汗が滲み出るような、激痛。鷹通は未だ嘗てここまでの痛みを感じたことはなかった。
 思わずこの痛みから、逃げ出したい衝動に駆られる。

 誰か―――――――――――――――――

「・・・・・・・・・・・・なっ・・?!」

 鷹通の右手が眩い光を放った。手の中の花がぱぁっと光りながら、花弁を散らして行く。
 花びらが幸鷹をも包み込み、二人は光の中に掻き消される。


 不思議と熱さはなかった。
 だが、幸鷹は眼を開けていられず、そのまま意識を手放した。








2004.10.09 

人間兵器(笑)

最終兵器おぼっちゃま・・・?
・・・・・すんません。






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