Rebersible Man 20






 この若者を初めて見た時、藤姫と出会った瞬間を彷彿させた。

 5階のベランダに人が倒れているのがどんな理屈で起こるものか。いくら友雅でも胸中「不思議だ
ね」では済まされなかった。
 だが、藤姫の場合は、帰ってきたらもう既にいた訳で、調べようもない。
 いくら何でも5階まで届く梯子はないだろうし、あったとしてもそんな事をして少女を運んで(もしくは
少女が自ら登って)いれば、目立たない筈はない。こんな民家の狭間にヘリなどもありえない話だ。

 そして、その答えが鷹通で示されたのだと思ったのだ。

 光に包まれ、ゆっくりと降りてきた若者。
 何故だか、藤姫と同じ『香り』を感じ、友雅はその真偽を問い質したくて仕方なかったのだ。
 わざと意地悪に花を隠した時の、あの妙に困った顔がからかい甲斐があって愉しくなってしまっ
た・・・というのも本音としてはあるのだが。

 思えば、それは何かに導かれた結果なのかもしれない。

 ゆっくりとした呼吸で眠る鷹通の睫は思った以上に長かく、柔らかそうであった。
 時期に似合わず深いネックの黒ニットを着込んでいる。昨夜も白いシャツをぴっちりと上まで締め
ていた。あまり肌を出すのが好きではないのだろうか。
 額に掛かる髪を、小指で払うと、
「・・・・ん・・・・・」
鷹通の瞼が、ぴくりと動く。

「気付いたかい?」
 鷹通が目覚めると、目の前には友雅の顔があった。
「・・・・・・・・・?・・・・」
「もう頭痛は大丈夫なようだね?」
「・・・・・・・・は・・い・・」
 ソファで横になっている身体をゆっくり起こす。それを手伝うように、友雅の手が肩に乗り、腕を引
いた。

 「鷹通殿、大丈夫ですか?」
 鈴を転がしたような少女の声に、鷹通ははっと振り返った。
「・・・・・・藤姫!!」
 開け放たれた隣の部屋との扉の境に、藤姫がしゃんと背筋を伸ばし立っている。
「もう、記憶も大丈夫ですね?」
「・・・・・・・・・・・はい」
 鷹通は唇をきゅっと引き結び、眼鏡を掛け直した。

 藤姫の向こうに、隣の部屋のベッドで横たわる幸鷹と、ベッドの端に腰を下ろして様子を見守る
ジェイドの姿が見える。
「・・・・・翡翠殿」
「あぁ、解っているよ・・・・」

 『翡翠』と呼ばれたジェイドは、眠る幸鷹の髪に左手で軽く触れた。そのまま指先を右頬に滑らせ、
タイを外しシャツを弛めた首筋に下ろす。
 その指先に、肌ではない何か固い感触が当たるのを確認すると、
「鷹通、先程の混乱で・・・幸鷹に『力』が移ってしまったようだよ」
鷹通の方に顔を向けた。
「・・・・・・・・えぇっ!」
 鷹通は深いネックの中に指を挿し入れ、自分の右の首筋を確かめる。
「・・・・・・・・・・・・ない・・・」
 そこに普段ならあるはずの感触が、消えていた。
「・・・・・そんな事が・・・」
「しかし厄介なことになった・・・・」
 再び、幸鷹の髪を弄ぶように触れながら、ジェイドは呟いた。
「なにしろ、幸鷹は・・・・警察の人間だ」
「・・・えぇっ?!」
 素っ頓狂に驚く鷹通を見て、やっぱりね、とジェイドは呟いた。
「あの怪盗騒ぎは君だろうとは思ったけど・・・・」
「・・・・・・・・・・・やれやれ、何のことだかさっぱり解らないのだが」
 友雅を困ったように掌を天上に向け、お手上げのようか格好を取る。

「友雅殿にはとてもご迷惑をおかけしております」
 藤姫はその場にしゃがみ込むと、深々と友雅に三つ指を突き頭を下げた。
「やめなさい、そんなことをして欲しいわけではないのだからね」
「はい・・・・・」
 藤姫は少し悲しそうに微笑む。
「・・・・思い出したのかい、自分のことを?」
「・・・・・・・・・・・はい」
 今までとは僅かに違う、意思を秘めた瞳をした藤姫に、友雅は微かに淋しい気分で微笑んだ。









2004.10.11 

やはり

友鷹書きたいのか友藤かきたいのか
私にも不明(笑)






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