Rebersible Man 30




 スタジオは、しんと静まり返っていた。
 先程までの活気は一切ない。撮影の終了した室内で、ぱさ、ぱさ、という紙を弾く音だけが響く。
 現像されたばかりの写真を、ジェイドは真剣な表情で見詰めては卓上に置く。それを繰返してい
た。時に目の前に置き、時にテーブルの端に置き、時に足元のダストボックスに投げ込む。
 明日までにスポンサーに出さなければいけないものを何枚かピックアップしながら、外向きの写真
と、世に出さない写真、そしてジェイドにとっての駄作も、ついでに吟味していた。

 ブ、ブ、ブ・・・・

 何処からか、小刻みに震える音が聞こえる。だが、最初はジェイドは気にする様子もなく作業を続
けていた。もう夜中を過ぎた。こんな時間に鳴る携帯など、ロクなことはない。だが、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ふと、胸ポケットに手を入れ携帯のディスプレイを覗いた。
 見たこともない電話番号。桁数からいって携帯だとは思うが・・・・そう考えた途端、携帯を開き受話
ボタンを押した。
「・・・はい」
『・・・・・・・・・・』
「・・・もしもし?」

『・・・・・・・・・もしもし・・』

 その声に、当たりだったね、と胸中で呟く。

「・・・驚いたね、電話をもらえるとは思っていなかったよ・・・刑事さん」
『・・・・・・こんな時間に、すいません・・・今、大丈夫ですか?』
 ざわざわと空気の流れる音が電話の向こうから混じる。恐らく外から掛けているのだろうとジェイド
は思った。
「構わないよ、どうせ仕事しているのだからね」
『・・・こんな時間なのにですか?』
「そういう君こそ、こんな時間まで?」
『・・・・・・今は、私の話ではありません』
 きっと電話の向こうで訝しげな顔をしているに違いない。そう思いながら、ジェイドは笑いを堪える。
「おや、じゃあ私を心配してくれているのかな?優しいねぇ」
『ふざけているなら、切ります』
「ふふ、まぁそう慌てなくても良いだろう?・・・それに」
『・・・・・・・?』
「夜の誘いは嫌いじゃない」
『切ります』
「冗談だよ」
『・・・・・・・・・・・』
 向こう側から、ふぅと溜息が洩れたのが聞こえる。
「用件を聞こうかな?」
『・・・・・・・・・・確認したいのです・・・・』
 その言葉の後、携帯の向こうは風の音のみが響き渡り、その先の言葉がなかなか聞こえてこな
かった。
「・・・・・・で、何を?」
『・・・・・・・・その、どのくらい、信頼すればよいのですか?』
「なんの話?」
『・・・その、カメラに力を回収するには・・・です』
「どのくらい、ねぇ・・・?」
 ジェイドはその言葉の意図は解していた。だが、紛れも無く悪戯心でこの質問を繰返しているの
だ。
「そうだね・・・君が私のヌードモデルが出来るくらいかな?」
『ヌ・・・?!それは出来ません!!』
「冗談だよ」
『・・・・・・・・・・本当に切ります』
 あちらの顔が容易に想像がつく。それを思うとジェイドは笑いを堪えるのが必死であった。
「私にも判らないのだよ」
『まだ冗談を言いますか?』
「本当さ」
 何しろこんなケースは初めてなのだ。力が完全な時と全く勝手が違うこの状態では、ジェイド自身
も回収の目安を図りかねていた。それを伝えると、
『・・・・・・・・・・・・・・・・』
再びざわざわという空気の音だけが暫く響いた。恐らく何かを考え込んでいるのであろう。
「刑事さん」
『・・・・・・何ですか?』
「百聞は一見にしかず、だと思わないかい?」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 電話の向こうにいる人物の頭の回転の速さを、ジェイドは知っている。堅物ではあるが、決して物
の道理を知らない訳でもない。ましてや、自分の中にある『完璧』への理想論のためには多少の我
慢も出来るだろうという、その気質も。

『・・・・・・休暇が決まったら、連絡します』
「承知したよ」
『・・・では、また・・・』
 そのまま切ろうと思ったが、ジェイドはふと思い立つ。
「刑事さん?」
『・・・・・・・?・・・何ですか?』
 遠くなった声が近付く。
「・・・・・本気で、君を撮っていいのかな?」
 いつになく、真剣な声で訊ねた。
『・・・・・・・・・今まではふざけて撮ろうと思っていたんですか?』 
「・・・さぁ、どうだろね?」
と、ジェイドが囁くと、
『・・・・・切ります!』
その言葉を最後に、プツという音。そのままツーツーという電子音がジェイドの耳に響いた。

 おやおや、と携帯を耳から離すと、
「気が強い・・・」
思わずふふ、と笑みが洩れた。






2004.11.28



うわーん・・・
なんかなんかなぁ・・・






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