Rebersible Man 32




「おはようございます」
 決して早くはないが、たった今起きてきた人物にはそう言うのが一番だろう。
 言いながら米がないことを確認すると、鷹通は棚にしまってあった食パンを手に取った。賞味期限
が過ぎていないことを確かめ、取りあえず二枚トースターに放り込む。
 冷蔵庫を物色して見つけた材料で、ハムエッグを焼く鷹通の脇を、友雅は眠そうに欠伸をし、気の
ない朝の挨拶を返しながら通り抜けた。シンクに洗い置きしてあった灰皿を手にしてリビングへ戻っ
て行くと、起きぬけに吸う一本にふぅと安堵する。煙草をぼぅっと咥えながら、見るでもないテレビを
友雅は目で追っていた。
 ワイドショーも終わりもうすぐ十時になる。とっくに起きていたのであろう藤姫が、ベランダで洗濯物
を干しているのがリビングの窓から見えた。藤姫がいると、煙草に嫌な顔をされるので今のうちにこ
れだけは吸い終えてしまいたかった。
「友雅殿は、何故モデルというお仕事をされているのですか?」
「・・・脈絡のない質問だね」
「今のお姿からは、想像も出来ないものですから」
「・・・・・・・・・なかなか言うね」
 くすくすと微笑みながら、肺に溜まった煙を一気に吐き出した。確かに、しわくちゃのパジャマとぼ
さぼさに乱れた髪には、人気モデルのカリスマなどは欠片もない。
「で、何故モデルのお仕事を?」
「さぁ、なんでだろうね」
「ご自分でも判らないのですか?」
「・・・・・・・・・・・・まぁ、そうだね」
 友雅の冗談めかした答えも、鷹通には通じなかった。真面目すぎて真正面から受け止めてしまわ
れては、皮肉屋も形無しである。
 本音を言えば話したいことではない。大嫌いだったはずのこの煙にも否応なしに慣らされてしまっ
たように、この仕事に慣らされてしまった。今は、鷹通の素直さに便乗しておこうと心で舌を出した。
「あの、すいません友雅殿・・・これはどう使うのですか?」
「あぁ、それはね・・・」
 コーヒーメーカーには馴染みがないらしく、鷹通はそれをあちこちから眺めていた。夕べ、友雅がこ
れを使ってコーヒーを入れているのを見、また飲ませてもらったそれが美味しかったことから、自分
も使おうと思ったらしい。
「これを敷いて、この粉を入れて・・・そう、2杯ぐらいだね」
 友雅の言うままに、鷹通は豆を入れ、ポットに水を流す。スイッチを入れると、コポコポという音と
共に、過ごしずつ動き始めるコーヒーメーカーを鷹通は暫し眺めていた。
「鷹通、焦げるよ」
「・・・あぁっ!!」
 言われて、慌ててフライパンを火から外す。くすくすと笑う友雅を尻目に、
「仕方ありませんね・・・これは自分で食べます」
と溜息をつきながら鷹通は焦げた卵を皿に移した。

 一昨日から鷹通はこのマンションで寝泊りしていた。
 今は藤姫との連絡を密に行いたいという鷹通の要望からそうなったのだが、元来の真面目さから
か、日中は手持ち無沙汰になればずっと掃除ばかりしている。実際、掃除といえばマネージャーが
たまにやってくれる程度で、友雅自身では滅多にしなかった。(まぁ、マネージャーの掃除も決して丁
寧ではなく、物が壊れることの方が多いので出来るだけお断りしているのだが。)
 藤姫が来てから、彼女の手の届く範囲での家事全般はやってくれているのだが、如何せん彼女も
お嬢様らしく、決して家事が上手とは言えなかった。結局、気が付けば友雅一人の時とあまり変わら
ぬ光景で留まっていたのだから、鷹通がやってくれることは有難かった。帰ったら物の置き位置が
変わったりしていて、友雅としてはいささか遣りづらい部分もあるが、室内が確実に過ごし易くなって
いるのだから、文句の言いようがなかった。

「確か、マネージャーさんのお迎えは十一時ですよね?」
 そう言いながら、鷹通は用意した遅がけの朝食をテーブルに並べた。ベランダ窓を開けると、
「藤姫、後は皺にならないものばかりですから、置いておいてください」
藤姫に声をかけ、食事を取るように勧めた。藤姫は嬉しそうに洗濯物のカゴを足元に置くと、そのま
まベランダ窓から室内へ駆け込んで来る。
 テーブルを囲み、食事を始めて程なく友雅がポツリと呟く。
「・・・そういう鷹通の仕事は、どういう内容なのかな?」
「私の、ですか?」
 コーヒーカップを置きながら、鷹通は逆に返された質問に戸惑った。
「どうと言われましても・・・・・」
「鷹通殿のお仕事は、とても立派なお仕事ですのよ」
「そうなのかい?」
 藤姫の嬉しそうな言葉に、友雅は再び鷹通に目を遣る。
「そのような・・・ただ、私は神子の導きのままに良きもの悪しきものを探し出す、それだけです」
「探す?あぁそうだったね、見出す力だと言っていた」
「はい、見に余る大儀です」
 幼い頃から、決して恵まれた暮らしではなかった鷹通はこの使命を帯びたことによって裕福な暮ら
しへと導かれた。しかし自分がどんなに変わろうとも、幼い頃から身に刻まれた生活を忘れることは
出来ない。それが、鷹通を強くするものでもあり、逆に一部の周囲から疎まれるものでもあるのだ
が、当の本人は果たしてそこまで気付いているのか定かではない。
 だが、鷹通が頭の良い子であることを友雅は察していた。職務が関わるとそうはいかないが、きち
んと相手を見極め踏み込んで良いところを図ることが出来る。それは、干渉されることが嫌いな友雅
にとってどれだけ楽なことか計り知れない。
 女性はまだ良い。友雅の見てくれに絆されて丸め込むことが出来るのだから。
 例えば、幸鷹のようなタイプは自分の好奇心に任せてとことん謎を解き明かそうと突き進むだろう
から、きっと安らげる友にはなれそうもない。
 そんな幸鷹にご執心のジェイドが気の毒だと思うと、思わず笑いが漏れそうになるが、
「・・・・・友雅殿?どうかされましたか?」
「いや、ちょっと考え事をね」
十人十色か、とそれを飲み下した。
「・・・?・・そうですか」
「あぁ」
 ここにいるのが鷹通で本当に良かったと、友雅は改めて感じた。









2004.12.18


友サマって、幸鷹とは
利害関係のみって感じ、しませんか(笑)







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